この国を危うくするものは何か?
塩野七生著「ローマ人の物語12巻・迷走する帝国」を読んで。

2004年1月7日

私が11巻の書評で明らかにした
「帝国の紐帯としてのローマ市民権の喪失」という概念を
12巻で著者は、「取得権の既得権化」として説明しています。
そして、著者は「ローマ帝国の一角が、この法によって崩れたのだ。
まるで、砦の一つが早くも陥ちた、という感じさえする」(32p)
と言っています。
私は、11巻で著者が
マルクス・アウレリウス帝に帝国衰退の責任があると批判したことに対して、
歴史が一般的な心性によって大きな影響を受けるという
「歴史心理学」(ゼベデイ・バルブー著、1971年法政大学出版局刊)を適用して、
11巻の書評でカラカラ帝によるローマ市民権の開放が
帝国の衰退に決定的な影響があったと指摘しました。
「帝国の紐帯としてのローマ市民権の喪失」が
帝国の組成に与えた影響も指摘しました。
著者も重大な影響があったと認めるなら、
マルクス・アウレリウス帝に対する故無き非難も再検討して、
11巻の記述を変更して欲しいものです。
そうすれば、高校の歴史教科書にもなりうる
「ローマ人の物語」の大きな瑕疵が消えると考えられるのですが。
もっとも、著者はこの解釈を導いたのは
カラカラ帝前の皇帝がなぜカラカラ帝と同じことを考えなかったのかという疑問と
「アントニヌス勅令以前のローマ市民」とわざわざ断った碑文によるものであったと
言っています。
著者は書評を見ないのでしょうか。
しかも決定的な書評には目を瞑って見ないのでしょう。
だから、マルクス・アウレリウス帝に対する不当な非難を
訂正する必要性も感じていないのでしょう。
同時代の声は「増税策」としか言っていないと著者は述べます。
歴史心理学の概念など存在するはずもなかった古代に
表面は善政であるアントニヌス勅令を
論理的に根本から批判することは極めて難しかったからでしょう。
同時代人はその帝国に与える重大な影響と不当性を感じ取りながらも
増税策としか言えなかったのでしょう。
著者の言う通り、カラカラ帝は善政だと信じ切っていたとも考えられますが、
周囲に悪政であることを知って勧めた人物が居るとも考えられます。
「カルタゴの復讐」である可能性は否定できないでしょう。
そして、ローマ市民権の喪失が
ローマ人の心性と現実の帝国機構に与えた決定的な影響は徐々に帝国を蝕み、
巨大な影響となって帝国を衰退させて行くのです。


私が11巻の書評として2003年頭頃に発表した「ローマ帝国衰亡の原因」
の全文はこちらから読めます。





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