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新経済システムの姿

 価値資本の贈与を行うために電子マネーと情報ハイウェーとコンピューターデータバンクを結び付けて、新しいコンピューター情報ネットワークを建設する。価値資本を国民一人一人に迅速かつ整然かつ容易に贈与するとともに、国民が指定された必需品だけを購入でき、使用した価値資本を通常の現金となんらかわりなく受け取ってもらえるためには情報システムの形を取る必要が有るからである。価値資本の特殊な性質を実現するためには、これが必要なのである。電子マネーの形であれば、小売店は何ら違和感なく懸念無しに価値資本を受け取るであろう。加えて、このような先進的システムを建設すれば、支払いの利便性が増すとともに税制、犯罪捜査などで改革が可能となるからである。
 これから、この新経済システムの具体的姿を述べようと思う。まず、システムの基礎になる現金口座と電子財布というものについて説明する。
 現金口座とは国民が一人一口座だけ一つの銀行(住民票の所在地内にある銀行支店の中から選択する)に開くことが出来る、現金を寄託する口座のことである。普通預金口座、個人の当座預金口座は現金口座に統合される。一人一口座なのは事務処理・情報処理を行う便宜のためと電子マネーの偽造などの不正を防止するためである。また、ペイオフはあり得ない。
 口座主は、現金口座の現金を、少額の電子マネーの支払い用、高額の電子マネーの支払い用、のし袋などの贈与のための小切手の支払い用(従来の個人用の当座預金口座に相当する)、口座振替やクレジットカードなどの支払い用(従来の普通預金口座に相当する)に指定して、別別にプールできるようにする。口座主に現金が手元に有ると同様に使途を指定できる利便性を与えるためである。
 現金口座には、コンピューターデータバンクを利用して、金額、日時、相手方、購買品目などについて通常の現金と価値資本の出入りの全てがそれぞれ記録されることになる。
 また、現金口座の現金は消費寄託ではなく、単に銀行に寄託するのであり、預かった現金を銀行は預金として貸し出すことはできない。当然利子もつかない。現在手元にある現金と同じようにその存在を保証し安心をもって預けられるようにするためである。
 電子財布とはICと記録装置を組み込んだ、電子マネーの入れ物である。高額の電子マネー、少額の電子マネー、価値資本の電子マネーを区別して収納・記憶する。電子財布は一人が一つだけ持つことができ、一つ一つに番号がつけられて厳格に管理される。また、保安のため暗証番号機能を持つとともに利便性のため、液晶画面で電子マネーの金額を確認できるようにする。指紋の情報も記憶できると良いだろう。
 以下、国民Aが現金口座から電子マネーを引き出して商店Bで買い物をする過程を具体的に説明する。
 Aの自宅には銀行の管理する現金口座につながった端末が有る。この端末は家庭にあるパソコンに接続してパソコンの機能を援用できるようにする。そして、少なくとも電子マネーの機能に関してはパソコンを家電並にするべきである。この端末を通じて、電子財布に電子マネーを補充できる。また、プールする現金の指定ができるとともに現金口座に記録された現金の出入りの記録を閲覧できる。もちろん、街頭にも電子マネーの補充が可能な端末が銀行によって設置されている。
 少額の買い物の場合、Aが端末で電子財布に少額の電子マネーを補充すると同時にその金額が現金口座上で少額支払い用にプールされる。それから、Aは小売店Bへ行って買い物をする。Bは自分の店舗に設置した端末を通じて代金に相当する電子マネーを受け取る。この時点で売買は効力を発生する。
 Bで発生した買い物の情報は、まず、小売店の端末から回線を通じてAの現金口座を管理する銀行へ行き、Aの現金口座から代金が引き落とされる。その後、引き落とし・入金の通知がBの現金口座を管理する銀行にネットワークを通して行き、Bの現金口座に代金の入金が記録される。
 この過程では、商店の電子マネーの受け取りの時点で売買が効力を発生する結果、Aは自分の現金口座に代金が無いことを理由に売買を否定することはできない。また、そのために少額支払い用のプールは撤回することができないものとされる。それでも、万一、プールされた現金が無かった場合は、小売店は遅延賠償金を含んだ代金を強制的に徴収できる簡易な手続きを設ける。
 価値資本で買い物をする場合も少額の場合に準じる。但し、指定された必需物資を購入した後、Aの現金口座の価値資本が引き落とされ、Bの現金口座に通常の現金が入金することになる。
 高額の買い物の場合について説明する。Aが電子財布に高額の電子マネーを充当すると同時に、現金口座に高額支払い用のプールが作られる。小売店BはAから電子マネーを受け取る。が、これだけでは売買は効力を発生しない。BはAの現金口座から高額が引き落とされたことを確認しなければならない(この確認をしないで商品を引き渡して、後で引き落としが出来なかった場合、その危険は小売店が負う)。引き落としの情報がAの現金口座を管理する銀行からBの端末に帰ってきたところで、売買が効力を発生し、商品が引き渡される。ただし、少額の場合と違い、引き落とされるまではAが高額用のプールを撤回できるようにする。また、高額の場合は、暗証番号か指紋により、電子財布の使用者がA本人かどうか確認するようにする必要があろう。後は少額の場合と同様である。
 電子マネーの細かい授受の手続きだが、店の端末が代金の情報を表示した後、客がその金額の電子マネーを与えるのを店の端末のボタンを押して承認する際に、電子財布に内蔵された指紋の情報を確認できるようにすれば、とても良いだろう。
 電子財布には買い物の記録も記憶される。Aは家庭に帰って電子財布上の記録を端末に保存して、閲覧し、銀行の現金口座の記録と照合できるようにする。電子マネーを引き出すと同時に、それまでの電子財布の記録が自動的に端末に保存されるようにすれば便利だろう。不正を発見した場合は訂正変更請求や告発ができる。
 AがBから出前を取ったりした場合、Bは携帯用の小型の端末(集金器)を持って集金に回り、Aの自宅で電子マネーを受け取り、帰ってから、店舗の端末を通じて銀行に情報を送る。
 電子財布が盗難に遭った場合を説明する。高額のプールは盗んだ者が使用する前に端末を通じて自分で撤回可能である。また、盗難の届け出により電子財布の番号を地域の銀行や小売店の端末に発信し、その電子財布を端末で使用できなくする仕組みを設ける。そして、盗難を受けた電子財布の使用情報は直ちに警察に通報されるようにする。また、一時的に被盗難者の現金口座からの引き落とし不能にもできるようにする。
 右に見たように現金の移動は引き落とし・入金を通じた現金口座の振替によって行う。従って、現金口座の残額が現金なのであり、電子マネーは法律上は現金口座の引き落とし請求権という性質を持つにすぎないことになる。
 よって、新システムが実現すれば各銀行の現金口座間の振替情報は膨大なものになるだろう。内国為替制度(全銀システム)を改編・強化する必要が有る。全銀行を大容量の光ファイバーで結ぶ情報ハイウェイを建設するとともに、事務処理の自動化を行う必要が生じる。振替の情報がさみだれ式や遠距離になると通信コストがかさむので振替情報をまとめて発信するセンターの建設を考えてもよい。各銀行内部でも機能を強化する必要がある。ただし、銀行間で入金・支払いの超過による決済の必要は無くなる。振替自体により、現金の移動は済んでしまうからである。
 銀行は現金口座の取り扱いに関しては価値資本を管理する行政委員会(管理本部)の命令によって増額できるだけで、それ以外は現実の経済の動きに厳密かつ忠実に従った情報処理ができるだけである。銀行は口座数に応じた管理の手数料を管理本部から受け取る。
 ただし、日本銀行だけは自己の現金口座の金額を自由に増減できるのはもちろんである。日銀は今まで通り現金の創造と消却の特権を有する。また、各銀行は日銀に現金口座を持つことになろう。
 銀行は店頭、街頭に端末を設置して暗証番号あるいは指紋で確認の上、サービスを行う。振り込み送金は電子財布と端末を使って行う。現金口座の金額情報を元に定期預金などの商品に勧誘することが許される。個人の小切手の現金口座への入金も扱う。銀行と国民は数年契約の現金口座管理契約を結ぶ。契約期間が終了すれば、他の銀行に現金口座を移すことができる。
 企業は事業所数に応じた複数の現金口座を持てるようにする。そして、営業の便宜のため一つの口座に対して複数の財布を持つことが許される。これまでどおりの当座預金取引を行う。ただし、口座に応じた事業所が現実に存在するか実質的に審査する。
 従って、企業の手形交換制度は現状のままだし、クレジットカード制度も引き落とされる普通預金口座が現金口座に代わるだけである。
 ところで、電子マネーは以下のような問題点を有するとされる。
                   (『図解電子マネー』東洋経済新報社より)
1 複写、偽造、盗難を予防する技術
2 不正利用を防ぐ技術
3 利用者のプライバシーを保護する技術
4 他者への譲渡を可能にする技術
5 電子マネーと実際の通貨の双方向性、等価性
 これらに対する私のシステムの答えは以下のようになる。
1と2について。
 情報のやり取りには暗号鍵などの暗号技術を駆使する。電子財布には記述内容を勝手に書き換えられない耐タンパー性領域を確保したICを使う。また、電子財布はセキュリティ確保のためにアイデンティティーを書き換えると使用不能になるようにする。さらに、電子マネーの使用状況が現金口座と照合される。盗難に対する対策については前述した。
 Aが、Aの現金口座からAの電子財布に電子マネーを引き出し、Aの電子財布を使用して消費を行い、その結果、Aの現金口座から引き落とされる形を守っていることも対策の一つと言える。
 対策としてシステムを保護するために刑事の特別立法を行う。革新的なシステムに対して、罪刑法定主義の観点からも立法が要請される。システム自体(施設、設備、回線、業務など)の侵害罪、現金口座の不正操作罪、電子マネーの偽造罪、電子財布の盗取罪、システムの秘密漏泄罪などについて検討する必要が有る。
3について。
 現金口座は銀行が管理するので、最大のプライバシー侵害者となる可能性の高い国家に対して保護される。
 国民は自己の現金口座の記録しか閲覧できない。
 小売店は、客の電子財布の番号と支払い可能性が分かるだけにする。
 銀行は各口座毎に原則として出入の日時、金額と相手方の口座番号が分かるだけにする。行員は現金口座に関する全てについて公務員並の守秘義務を負う。法律上、現金口座の取り扱いに関しては公務員と見做す。ただし、本人に対する定期預金の勧誘等の営業は許される。
 新システムの通常の業務は銀行員が行うが、保守・修繕などは管理本部が行う。
 また、立法で現金口座に関する情報の売買を禁止する。
4について。
 現金の他者への譲渡は現金口座の振替の形を取り、電子マネーは現金の引き落とし請求権に過ぎない。
5について。
 電子マネーは情報であり偽造されやすいので、管理可能とするためにも、完全に通貨と同じにすることはしない。現金口座の引き落とし請求権にとどめる。
 大枠はこれでよいと思うが、システムの詳細についてはよくよく考えることが必要であり、英知を結集することが望ましい。

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