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価値資本の経済への影響

 価値資本が贈与されれば、消費が増大し投資が増大するであろう。その一方では貨幣供給が増大し、インフレ(ディマンドプルインフレーション)の恐れが考えられる。しかし、消費の増大に対応する生産があれば、インフレは生じない。インフレは避けられるであろうか。生産増大の一般的可能性を検討する。
・資本は、日本には十分存在するし、価値資本からも転化して供給される。
・また、インフラストラクチャーも十分整備されている。
・労働力は、機械化を進めることにより省力化が可能である。省力化を進める技術もある。 労働の効率化も考えられる。
・原材料については、リサイクルを進めれば節約できるし、可能性としては宇宙にも求め られる。新素材、新資源の発見も見込める。
・増産の技術も十分である。
・環境問題も保護のための科学技術や、リサイクルなどで解決可能である。
・生産設備も十分だし、生産財も、右記の検討により、増産可能なことは明らかである。
・以上に加えて、現在日本は不況下であり、失業者と遊休資本が存在し、これを増産に動員できる。
 現在、文明は、一般的に生産力が過剰であり、増産が可能な状況下にあるのである。
 また、必需品を買える価値資本が贈与されるからといって、必需品の消費が爆発的に増えるということは考えにくい。現在でも必需品は満足すべき程度に行きわたっているからである。よって、必需品の購入に価値資本を使うことによって浮かした収入で、奢侈品(電化製品、耐久消費財など)や趣味・娯楽への支出が増えると予想される。これに対して、日本の強力な産業は十分対応できるだろう。
 そして、日本の主要シンクタンクのうちの四つがデフレギャップを4〜6%の間だと推計しているので、デフレギャップを埋める程度の5%の価値資本の贈与によるインフレの可能性は低い。
 インフレの不安に関しては、価値資本の贈与は現象的に赤字国債の日銀引き受けに類似し、財政法5条の趣旨に反するのではないかという疑問が考えられる。
 しかし、価値資本の贈与による悪性インフレの恐れは少ない。刺激の対象は官需・軍需ではなく民需であり、それに応じて消費物資が増産されるからである。すなわち、官需・軍需により民需が圧迫されて消費物資が不足し、一般物価が高騰してインフレが進行するようなことは無い。また、財政支出ではなく国民の消費支出が増大するだけなので、国の財政悪化は無い。価値資本の消費による現金獲得のための競争が行われるので、国や企業の能率に悪影響を及ぼさない。公債が後に残らないため、将来への不安も残らない。
 従って、価値資本の贈与は実質的にも財政法5条に反するものではない。
 一九九二年秋以降、岩田規久男教授は不況対策としてハイパワードマネーの供給増によってマネーサプライの伸び率を引き上げるべきと主張した。これに対して、日銀は「ハイパワードマネーの量を増加させ、金利政策と別ルートでマネーサプライをコントロールするというメカニズムは成り立たない」と言う(岩波新書『日本銀行』川北隆雄著より)。
 確かに、現在の手法でマネーサプライを増やせば、そのとおりだろう。しかし、価値資本の形で現金を増加させれば、コントロール可能となる。なぜなら、国民に直接与えた価値資本を国民の消費後に、日銀が銀行や市場を通じて吸収することが、新経済システムにおいては可能だからである。価値資本の入り口と出口は別になるからである。
 このように新経済システムにおいては、生産の増強に加えて、日銀が貨幣供給を抑えることによっても、インフレ対策が可能となる。価値資本を贈与する一方で、日銀が売りオペレーション、預金準備率の引き上げなどを実施しても何ら矛盾するものではないのである。当然、利上げも実施すべきである。
 なお、通貨の供給が増大することによって懸念される円安についてだが、新経済システムにより日本経済が回復・強化されるので起こりにくい。また、対策として日銀は金利を上げることが可能になる。
 では、コストプッシュインフレはどうか。
 まず一般的に言って、価値資本は利潤から分配される所得ではないから、製品価格に転嫁されてコストプッシュインフレとなることがないのは当然である。
 また、私の経済政策と同じ総需要政策であるケインズ政策に対する批判も、価値資本にはあてはまらない。
 マネタリストは、ケインズ政策を実行すればインフレによって実質賃金が目減りするので労働者は高い名目賃金を要求し、企業はそれを製品に転嫁するので、コストプッシュインフレが進行し、ケインズ政策の効果を減殺するとする。しかし、価値資本の贈与の場合は、賃金の目減りに数段勝る家計の補助が得られるし、生じたとしてもインフレ自体も穏やかで、価値資本をインフレに応じて増額することも可能であるので、賃金上昇を抑えることが可能である。マネタリストの批判は、ケインズ政策に対する当否は別として、新システムには当てはまらないのである。
 さらに、合理的期待論者は、企業家はインフレを期待して生産を増加しないので効果が無いとケインズ政策を批判する。この批判も価値資本には明らかに当てはまらない。なぜなら、企業家は現実の民間の消費需要増に応じ、それに比例して一定の価格レベルでの供給をともに増大させると合理的に期待できるので、物価の上昇は穏やかだと予想するのが合理的だからである。
 以上のように、私の経済政策はインフレーションの恐れが少ない上に、財源が必要ないため将来への不安が残らない。効果は大だと考える。
 近い将来、新システムが導入されて景気が回復し、5%の価値資本の贈与で自然に経済成長率が増大した場合は、価値資本の額は据え置くことになろう。景気の下支えに物価上昇率程度の増額で十分だろう。
景気が過熱した場合は、通常、価値資本の減額以外の手段(利上げなどの従来の経済政策)を行うべきである。価値資本の贈与は生存権の実現である国民の権利であるし、価値資本を減額すれば国民に将来への不安が生じるからである。
 景気は回復しても成長率は低い状態が続く場合は、価値資本を増額して強制的に経済成長を図る道がある。
 経済政策を大きく誤らなければ好況が永続する道が開けるのである。

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